石川誠二の診断士日記

中小企業診断士の雑記帳です

ものづくりIoTと4M管理(12) 中小企業のIoT導入手順

随分と更新に間隔があいてしまいました。反省。

 

さて、今回は中小企業がIoTを導入する際の手順というか指針となるものを説明したいと思います。良くありがちなのが、マスコミとか展示会で最近なにやらIoTがブームになっているから、うちもやってみよう、という形でしょうか。

 きっかけは、それでも良いのですが、いざ、お金と人をかけて実行してみようという段では具体的になってなければいけません。

 具体化しようにも何ができるんだろう、という方々には、他社の導入事例を勉強するのが良いでしょう。システムベンダーさんのHPにはいろいろ載っていますが、どうせベンダーさんはかっこよく書いているだろう、という方には、白書などを参考にしてみるのも良いかもしれません。白書も「かっこよく書いていますが、商売臭さは薄いと思います。例えば下記のリンクを参照ください。

 

2019年版 ものづくり白書 第1部 第2章 第3節

https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2019/honbun_pdf/pdf/honbun_01_02_03.pdf

 

2018年版 ものづくり白書 第1部 第1章 第2節

https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/honbun_pdf/pdf/honbun01_01_02.pdf

 

他にも探せばいくらでもあると思います。

さて、よそ様でうまくいっているなら自分のところでも何かできるはず、とお考えの場合は以下のステップに従って導入をお考え下さい。

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まず、ステップ1として、目標を明確化することです。これは経営者の仕事です。決して若手のパソコンが得意な社員に任せられるものではありません。例えば日頃から取引先から言われていること、例えば納期が長いとか品質が安定しないとか、不良が出てしまった場合影響がでる範囲(遡及範囲)をすぐ特定したい、といった経営に直結した問題点を解決するんだ、という大きな目標を設定しましょう。

 次にステップ2として当面のゴールの設定です。ここは具体的かつ限定した内容で始めることが重要です。いわゆるスモールスタートです。品質が安定しないのは、○○の温度が安定しないから、とか、納期が長くなるのは部品の××が欠品しやすいから、といった問題発生の原因は、社長自身心当たりがあったり、あるいはベテランの作業員などと議論すれば出てくるものだと思います。工程のことを良く知っている経営者やベテラン作業者の方が原因に心当たりがない場合は情報システムに頼らず、ものの作り方を原点から見直すのが筋だと思います。

 さて、原因が明らかな場合、それをモニタする手段を考えましょう。温度や投入部品の在庫の個数などモニタする対象を具体化して、それをモニタして可能になる作業者側のアクションも議論しておくべきです。温度モニタしても調整が出来なきゃどうにもならない、ということもあります。ここまでの議論で、ステップ1の目標が達成できそうもないならIoTに頼るのは辞めておきましょう。

 次にシステム構成を考えるのが普通の手順かも知れませんが、ここではその前にもうひと手順踏むことを提案します。ステップ3としてはモニタする工程やモニタしたことに関するアクションに対する4M項目の管理の状態を洗い出しておきます。対象とするのは「アクション」に関連して、対象の品種、工程、機械の調整項目、作業者に関する情報(資格等)、管理値など、作業手順書や対象の品種、設備に記載される項目です。これらの変更・承認、書類発行・登録の手順(ワークフロー)確認しておきましょう。こうした項目が現場任せになっていたり、管理があやふやな場合、IoT導入を期にしっかり決めておくことです。ベテラン作業者は、なんとなく勘と経験を頼りにやってくれますが、IoTに任せてパソコンで処理する場合、しっかり決めておかないと、どうにもなりません。またIoT導入に伴って「アクション」を定める作業手順書や、以前説明したマスターデータの登録手順とその責任者(ワークフロー)を決めておきましょう。

 次のステップ4が導入するツール、センサーなどを決めて、システム構成を考えるステップです。ここからがソフトウエアベンダーさんと相談する内容です。

 そしてシステムが完成し、さあ試行しようという場合、ステップ5として完成したソフトウエアにバグがないか調べるのは当然として、ステップ3で検討したワークフローがうまく回るか必ずチェックしてください。ある品種ではうまく動いたけど、品種名を変えたらうまくシステムが動かないといったことの他にパソコンにきちんと変更すべきマスターデータが登録されているかどうか、確認することが必要です。これはワークフローの問題でシステムの問題ではないかもしれません。実はこのワークフローの問題がIoTシステム導入の最大の障壁とも思っています。

 

ワークフローの問題に関しては、次回に説明します。

 

  

 

 

 

ものづくりIoTと4M管(11) 4Mデータ管理の難しさ

今回は4Mデータ管理の難しさとその対応策について5つの観点で纏めます。

(1)抜け漏れなないこと

 4Mデータ管理の難しさは、まず抜け漏れなく項目を書き出すこと、です。ただ作業指示書などには使用する部品、作業手順、使用する機械などを記載しているはずです。また作業してよい人などの制約があれば、それは別途管理しているはずです。調べる範囲が広範になりますが、これは地道にやる以外ありません。

(2)変更点のメンテナンス

 変更がかかったタイミングで正しくデータをメンテナンスすることです。従来変更がかかったことを通知する書類を作成する作業の代替えとしてデータベースに入力することメンテナンス漏れを防ぐことができます。

ものづくりIoTと4M管理(9)マスターデータの データベース化のメリット - 石川誠二の診断士日記

で述べたデータ入力のワークフロー化を行うことで、このデータのメンテナンスの確実化とデータの抜け漏れ防止が図れます。このワークフロー化の際には、必然的に起点(変更を入力する人)を設定しなければなりません。この起点が実務と異なる設定、例えば社内ルールでは設計担当が入力することになっているのに、購買担当が入力するような形、だったりすると運用に乗りません。

(3)社内用語の統一

 少し細かいことですが、社内用語の統一、という問題もあります。前回に書いた現場では1番のネジ、購入時は型式番号、という類です。多くは現場と設計の間で不統一があったり、担当する製品が違うと呼び方が違うことがあります。私は、以前、アルミを使用する工程が「Al工程」と記載されているのでそれに関するデータを得ようとして、データベースを検索しましたが一向に出て来ず、データベースには「AL工程」と登録されていた、という経験をして随分とストレスをためたことがあります。こうした用語の不統一は使い勝手を著しく落とすばかりか、ユーザに不信感を持たれるよう要因になります。AlとALくらいならば、あいまい検索の機能を入れて、と思うかもしれませんが、そういう機能を入れ込んでいくたびにシステムは大きくなり、導入・開発費は膨らみます。日常業務で用語の統一をしておくに越したことはありません。

(4)モニターデータは扱える範囲で

 またIoTが話題になって、設備から様々なデータが取れるようになると、逆にデータがありすぎて困るようなときもあります。社内で解釈できず設備メーカーに問い合わせなければわからにようなデータを設備から引き出して生産ラインのPCで常時見ていても無駄でしょう。例えば生産機械の異常診断にIoTを活用しようという動きもあります。自社でこの項目を見ていれば異常診断ができる、という知見があれば異常診断システムを導入すればよいですが、この機械は何十種類とデータが引き出せるらしいけど、随分と難しいアルゴリズム処理だかAIぽいことをしないと診断できないらしい、という場合、よほど切羽詰まった事情があるかデータ解析専任の担当者がいる場合を除いて、導入は見送った方が良いでしょう。自社で扱えるモニター項目に絞るべきです。

(5)異常値の扱い

 検査装置や機械のモニター値など、時々変な値を出すことがあります。変な」というのは不良品としてもあり得ない」といった意味です。これは生産現場のデータを見たことのある方には、実感としてわかっていただけると思いますが、例えばIoTシステムを構築するSEの方などは最初驚かれるようです。

 検査装置でこうした異常な値が出たときは、即座に不良とはせず、再検査にかけることも多いものです。この際、1回目のデータを残す/残さない、また異常なデータの記述の仕方(データの値をそのまま残す、NAなどの表記をするなど)といったことに関してルールを設けておいた方がデータ活用時に間違いが起こるリスクを低減できます。

 ちなみに検査工程で「変な」データが出て再測定する場合、1回目のデータを残さない方が製品の検査結果のデータとしては扱いやすくなります。しかし、あまりにも「変な」値が出る頻度が高い場合、検査装置自体や作業方法に問題があるのかもしれません。そういう場合、1回目の「変な」データを残していたほうが、検査装置の状態に関しては解析しやすくなるでしょう。

 また再測定があることを知らない方(他部署あるは社外のコンサル等)がデータを処理すると、とんでもない結果になりかねません。「再測定があることも知らないのか」、とその工程の担当者は思うかもしれませんが、普通、知りません。最初にこの工程ではこういうルールで検査データを扱っている」と説明できるよう、ルール化しておくべきです。

 次回は以上説明したことを踏まえ、特に中小のものづくり企業でIoTを導入しようする際の手順を説明いたします。

 

 

 

ものづくりIoTと4M管理(10) マスターデータ管理の重要性

今回はものづくりにIoTを導入する際に4Mに関わるマスターデータの管理が重要な理由を説明していきたいと思います。

 ひとつ簡単な事例で説明してみましょう。

 部品箱にあるネジをカウントするセンサーをもうけ、残りが一定数以下になったら部品倉庫に必要なネジの型式を知らせて、それを補充する仕組みを構築するときのことを考えましょう。

 作っている品種が1種類で、ネジも1種類ならばそう間違いがおこることもないでしょう。そもそもセンサーを設けてわざわざIoTを活用したシステムを作るも必要なさそうですね。しかし、作っている品種が100を越え、それぞれ使用するネジが違ったり、品種によっては違う種類のものが複数使われていたら、ネジは管理はだいぶ大変になりそうですね。実際、ネジは太さや長さが同じでも材質やネジの頭(締める溝のあるところ)の形状が違うなど千差万別です。従ってそれぞれに型式の番号がついていて、購入時にはそれを指定して間違いがないようにします。しかしこの番号は10桁くらいの英数字からなりますから、現場ではそんな長い番号は使えません。使う順番などから1番のネジ、2番のネジなど簡単な名前で呼ぶことになります。するとこのセンサーでカウントしているのは1番のネジでそれは型式番号何々、こっちのセンサーでは2番のネジをカウントしていてそれは型式何々、と必ずセンサーごとのカウントしているネジの型式を対応付けなければなりません。

 さらにネジの型式が購買や設計の都合で変更になったら、その場でこうした対応付けも変更されなければなりません。

 しかし、IoTを用いた場合、「1番のネジが減った」状態をセンサーで検知し、部品庫に型式XXのネジを補給する指示を通知するには、センサーとネジの対応付け及びその製品に使うネジのリストが正確に更新されていなければならないことは理解いただけるでしょう。

これは

ものづくりIoTと4M管理(8) 4Mのマスターデータとモニターデータ - 石川誠二の診断士日記

で示した図のマスターデータのところに示した照合・確認のところです。センサーで得られたデータが何を意味(ここではネジXXが足りないということ)するか確認し、現実世界(部品倉庫)に指示を出す場合、その製品に使用する部品のリストは常に正しく更新されていなければなりません、またセンサーとネジの型式の対応付けも更新されていなければならない、ということです。

 この部品リストの管理はIoTがブームになる前からその重要性と難しさは議論されていました。そしてその解答として部品構成表(BOM:Bill of Matelials)という纏め方が使われています。BOMに関しては後ほど説明する機会があると思います。使用する部品に変更があった場合に部品構成表を書き直さねばなりませんが、紙で部品構成表を管理している場合は書き直すのは結構な手間です。それを個々の部品番号はデータベースに入れて、出力形態として部品構成表のフォーマットになるようにすれば部品構成表の変更の手間は省けます。このように部品の番号、名称とそれを使用する製品の情報をIT化(データベース化)して管理することで、部品構成表を作成する手間は随分と楽になりました。しかし、変更した「部品番号」自体は、正しく入力されねばなりません。

 IoTでなんでもかんでも便利になるわけではありません。部品構成表がしっかり管理できていない職場で、この例のようなシステムを導入してもうまく動きません。逆の言い方をすれば現状の管理レベルに合わせたIoTしか導入できません。

 また人はあいまいな言い方、記載の仕方でもなんとなく推測して結果として正しい作業をしてくれるものです。しかし、計算機はそうもいきません。例えば全角/半角文字の違いだって、その処理方法を指示しなければ望むような処理はしたくれません。そういう意味でIoT化を進めるには、また一段高いマスターデータの管理が必要になります。そうしたIoTを見据えた4M管理の難しさに関して次回は説明します。

 

 

ものづくりIoTと4M管理(9)マスターデータの データベース化のメリット

前回、マスターデータとモニターデータの中身について説明しました。今回は若干の繰り返しになりますが、マスターデータをデータベース化するメリットに関して説明したいと思います。

 マスターデータは、作業者の名簿やら設備の仕様、購入時の記録など、もともと文書で管理されていることが多いものです。それらをデータベースに入れて検索しやすくして、再利用、加工しやすくするものです。したがって、データベースに入力する際には人手入力に頼らざるを得ないところがあります。

 もちろん、機械の図面や仕様、部品の図面や仕様など、もうメーカーさんとネットワークを介してやり取りして人手入力を廃した会社もあるかもしれません。それは人手入力の手間を省くために一定の投資をしてIT化を進めた結果ですね。

 中小企業の場合、そうした投資の余裕もないし、書類をベースにした仕事の仕方で特に困らないよ、というところも多いと思います。ホントに困らなければ、別に書類ベースの仕事で良いと思います。実際、かなりの仕事はIT化、IoT化しなくても回ると思います。時流だからとってシステムベンダーの言われるがままに導入してもお金のむだです。ただ後の回でいくつか事例を示しますが、こうしたマスターデータの管理がおろそかになっていたために、極めて厳しい批判にさらされた会社もあります。中小企業の経営者の方々には、できるところから始めていただきたいものです。

 現実問題として、一度データベースにデータを入力したら、そのデータを使った書類には自動的にその入力項目が反映されていた方がうれしいですよね。以後の記載ミスも減りますし、手間が削減できます。こういうメリットが見えれば手入力もしようということになるかもしれません。

 例えば、

 設計の方が使用する部品を決めて購買にその部品番号を伝える、購買がいくつかの部品メーカに問い合わせたら同等のものが低価格で入手可能なのことが分かったので、その新しい部品番号を設計に伝える、設計はその同等品の採用を決めて他の部品と併せて部品の一覧表を作成する、

 よくある設計と購買のやり取りです。

手作業ならば何回となく部品番号をメモしたり、書類に記入しなければならないでしょう。働き方改革が言われる中、その手間も大変ですし、その間に勘違い、下記間違いも発生するかもしれません。こうした業務はその処理の流れに沿って定型化できます。この定型化したものをワークフローと言います。ワークフローに関しては詳しく述べると大変な分量となりますので、ここでは割愛します。一度入力したデータをワークフローに沿って活用できるようにする、あるいは活用できるようにワークフローを整備する(仕事を定型化する)。IT化のメリットはこのワークフロー整備による入力したデータの再利用容易化、といっても過言ではありません。

 次回はIoT化を進めるための前提としてIT化が必要な理由を説明していきたいと思います。

 

ものづくりIoTと4M管理(8) 4Mのマスターデータとモニターデータ

ここでは、マスターデータとモニターデータの関係を少し纏めて述べたいと思います。

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図の緑の部分は自社を示していて、青い部分はお客様です。緑の部分のセンサというのは製造現場に置かれた各種センサーだと思ってください。

 このセンサーで、製造現場で起こっていること、例えば作業者は誰か(作業者番号)、使用している部材は何か(部材コード)、使用している設備の温度とか流れている電流、そして作業している工程名とか検査結果などを収集します。これらがモニターデータです。

 そしてモニターしたデータはマスターデータと照合、確認します。作業している人は、その作業をする資格を持っているか、使用した部材は正しく登録されたものか、設備の処理条件は登録されたものと一致しているか、ものの流し方は顧客と合意したものか、といった確認です。これは常時オンラインでできればそれに越したことはありませんが、多くの場合は事後に点検する形になるでしょう。いずれにせよ、モニターしたことが正しいかどうか確認するための判断基準なり決めごとが管理されていなければ話になりません。この判断基準なり決まり事がマスターデータとなります。

 このマスターデータは、こういう機械や部品といったハード、ものの作り方や作業者の資格といったソフトを含めた現場の姿、構成要素を記述した、いわばデータベースになります。

 こうした現場をモニターする仕組みと、モニターしたことが正しいか判断する基準、決まり事があるからこそ、モニターしたデータに基づいて実績を把握したり、改善点を検討することが出来ます。

 顧客から、「この前納めてもらった製品、少し寸法のばらつきが大きいんだけど製造履歴見せて」、と問い合わせがあったとき、現場でその寸法の検査をしていてそのデータをモニターしていても、作業者が寸法測定の教育を受けていなかったり(測定ミス)、加工設備の設定条件が間違って設定されていたら(加工ミス)、問題です。

 このように、IoT時代になっていくら良いセンサーとネットワークを使ってデータを収集しても、そモニターしている項目に関する決まり事、判断する基準などがしっかり管理されていなければ何も活用ができません。

 だいぶ現場よりの書き方をしましたが、すこし概念的に纏めてみましょう。IoTとは、計算機上に構築したサイバー空間に現実世界でモニターしたデータを与え、処理して現実世界で活用を図るものですが、このサイバー空間で製造現場を正しく構成するためには、現実の人、機械、材料、手段という4M要素を正しく必要な分だけデータ化しなければ、現実世界のモニターデータの処理・活用は望めない、ということです。

 ここで、「正しく必要な分だけ」ということが重要です。特に「必要な分」というのが重要で、大掛かりなソフトウエアの展示会でのデモのような「バーチャルファクトリ」を目指すのか、あるいは加工時の温度をモニターして異常診断をするだけなのか、といった目的によって大きく異なってきます。

 本ブログのこれからの記事はそうしたことを明に暗に意識しながらまとめていきたいと思います。



 

 

ものづくりIoTと4M管理(7) 4Mのマスターデータとモニターデータ

 今回は、実績に関するデータ、いわばモニタして得られるデータに関して説明します。モニタというとカメラによって撮影した動画とかセンサーによって得られた温度とか振動などのデータを連想しがちですが、ここではもう少し広い意味で使います。

 例えば作業者の出勤状況もモニターデータとします。タイムカードなり出勤簿なり会社によって管理の方法は違うでしょうが、今日現在の作業者の出勤状況」をモニターしている、と考えていただければ良いでしょう。

 つまり。時間とともに変わる状況を記録したものをモニターデータと呼ぶことにします。出勤の記録がモニターデータならば作業者名簿はマスターデータと考えれば良いでしょう。作業者名簿も時折更新する必要がありますが、作業者が加わる、あるいは辞めるというのは不定期でしょうし、多くの会社では数カ月に1度くらいの頻度でしょう。

 そこで実務的には、

 マスターデータ・・・更新頻度は不定期で多くの場合数カ月に1度

 モニターデータ・・・日々或いはもっと短い間隔

 と更新頻度に注目して区別するのが簡便です。

このモニターデータに関して、4Mごとにどんなものがあるか見ていきましょう。

 

M要素

モニタデータ

Man(人)

出勤状況、所在位置、担当した製品とその業務 等

Machine(機械)

稼働時のモニタ値、適用した製品、トラブル・メンテナンス内容 等

Material(部品)

製品に使用した部品のロット番号または個体管理番号等

Method(手法)

製品に適用した工程フロー、作業内容、作業手順、設備の使用方法等

 

 

 Manのところに所在地」とありますが、これはモニターカメラを作業現場に設置して作業者の居場所を時々刻々と記録することで分かるようになります。もちろん、この「所在地」はすべての工場で把握する必要はありません。後で例を紹介しますが、こうしたものを管理する例が出てきている、というぐらいに考えてください。

 Machineのところの「トラブル・メンテナンス内容」は例外的にモニターデータとしましょう。トラブルが毎日あったら、たまったものではありませんが、起こるポテンシャルはあるので、枠組みとしてはモニターデータとした方が便利です。定期メンテナンスのデータとなると、3カ月に1回とか半年に1回程度でしょうから、マスターデータとして扱うことも可能ですが、これも例外としてモニターデータとして扱いましょう。

 MaterialとMethodのところで「製品に使用した」部品とか工程フローと書きましたが、これは製品の管理単位である製造ロットごとに記録するという意味です。自動車のような個別生産なら車体番号とか個体管理番号ごとに記録することになります。

 現実の作業現場ではロット番号や個体管理番号がつけられず、しかも後の工程で順番が入れ替わってしまう、ということも良くあります。こういう場合は「作業日時」を併せて記録しておけば良いでしょう。ロット番号を記録する、といっても、「ロット番号を発番する、「それをケースに添付する」、「添付されている番号を読み取る」、といった作業が必要です。高温処理する環境などでは「読むこと」自体が簡単なことではありません。この後、製造現場にIoTを適用するお話をすることになりますが、現場にはそれぞれ事情があります。ロット番号を使うか作業日時を使うかといったデータの管理方法一つとっても現場にあったIoTシステムを構築しなければ、ユーザには受け入れてもらえません。

 

 

ものづくりIoTと4M管理(6) 4Mのマスターデータとモニターデータ

さて、4Mでは具体的にどんなデータを管理するのか詳しく見ていきたいと思います。ここまで4Mは「決まり事」と「実績」からなる、と書いてきました。そして計算機の中でそれらを処理して役に立たせる際、すこし工夫しておくと便利になります。

 たとえば昨日工程Aで作業したのは鈴木さん、今日工程Aで作業したのは山田さんといった「実績」があったとき、顧客の監査で

「鈴木さんはこの工程で作業できるだけの経験積んでますか?

などと質問があったとき、教育記録の台帳を見せて、

ハイ、いついつ研修を受けています、山田さんもこの通りです」

と見せることが出来れば、スムーズに監査が進みますよね。

このように、作業者ならばその人の氏名、社員番号から始まって研修履歴など主な人事情報をひとまとめにしておけば、便利です。氏名などは結婚などで名字を変えるときぐらいしか変更はないでしょうし、研修履歴も日々更新されるものではないですね。

 このように更新頻度が低い情報を纏めてマスターデータとして計算機上で管理しておくとよいでしょう。ちなみにこうしたマスターデータは往々にして手入力になります。

 作業者に関する情報だけでなく、材料、機械、方法すべて同じです。例えば、機械に関しては、この部品はこの機械Aで加工する」という「決まり事」があったとき、機械Aの型式、仕様・能力、購入年月日、購入金額、設備メーカとその連絡先、メンテナンス項目などが纏めて管理されていれば便利です。実際、多くの工場では設備管理台帳のような形で実施されているのではないでしょうか。

 以下の表に4Mごとのマスターデータの例を示します。一例ですので必要に応じ、取捨選択したり追加して頂ければ結構です。

M要素

マスタデータ

Man(人)

氏名、社員番号、担当できる作業、教育履歴 等

Machine(機械)

名称、設備メーカ、購入価格、購入日、仕様・能力、設置場所、メンテナンス項目 等

Material(材料)

名称、部品メーカ、部品コード、使用製品、使用工程、購入価格、仕様・組成 等 

Method(方法)

工程フローと個々の工程名称、工程ごとの作業内容と手順及び設備の使用方法 工程ごとの使用部品 等

 社内で機械にセンサーを取り付けたり、機械から直接稼働データを収集する場合、機械ごとにネットワークのアドレスも一緒に管理しておくとよいでしょう。

 Materialのところで、部品ごとに使用する工程を管理して、Methodのところで工程ごとに使用する部品を管理する形になっています。これはデータとしては同じものですが、紙で記載した部品管理台帳や工程管理台帳では別々の書式で管理することになります。当然、作成の手間は2重になります。

 しかしPC上のデータベース上で管理していれば、一度入力すれば後は部品をキーに検索して使用する工程を出力するか、工程をキーに検索して使用する部品を検索するか、の違いだけです。これがIT化のメリットの一つでしょう。

 ただ現実問題としては、紙の台帳は残ったままでそれを見ながらPCにデータ入力といったケースもあるようです。PCに入力したデータを活用する人が何十人といる場合は、そうした「データ入力係」を置く意味もあるのでしょうが、多くの中小企業ではそんなに活用する人は多くありませんし、そうした人を置く余裕もないでしょう。これはIT化を進める上で良く問題になる点です。あとのの記事で触れていきたいと思います。

 次回はこのマスターデータに紐づいて記録する「実績」、いわばモニターデータについて説明していきます。