石川誠二の診断士日記

中小企業診断士の雑記帳です

ものづくり補助金の政策効果をめぐって

ずいぶんとブログの更新をサボってしまいました。

再開して少しづつ徒然思うことを書きためていきたいと思います。

 

更新をサボっている間、去年の11月ころでしょうか、一部報道で、経産省の研究機関がものづくり補助金の政策効果を検証した結果、統計的な有意性は確認できなかったものの、補助を受けた企業の方が受けなかった企業より成長率が低かった、といったものがありました。その報道では、ものづくり補助金のあり方に対する問題提起があったとともに、エビデンスに基づいた政策決定の重要性などが語られていました。

 だいぶ時間がたってしまったのですが、報道のもととなった経産省の研究機関(RIETI - 独立行政法人経済産業研究所)にディスカッションペーパーの形で検証結果があったので読んでみました。

RIETI - ものづくり補助金の効果分析:回帰不連続デザインを用いた分析

 

統計学の回帰不連続デザイン(RDデザイン)という手法を用いており、不勉強な私には手法の詳細は吟味できませんが、いくつか面白いことが書かれていました。それは解析に用いたデータについてです。前述の一部報道でも、解析に用いたデータは4人以上の製造業の事業者のみで、3人以下の製造業、サービス業などの事業者は対象外だと書かれていました。しかし、これは4人以上の製造業を対象にした議論では問題ないことを意味します。ディスカッションペーパーに書かれていたことはもっと本質的なことでした。私が問題だと思ったのは、

(1)補助金申請に落ちた事業者が再申請しているが再申請で採択された場合が考慮されていない、ということです。つまり1次申請で落ちて2次申請で採択された場合でも、1次申請データの中では不採択事業者として扱っている

(2)解析対象としたH24、25年度の審査では、合格ボーダー付近の案件を集めて再評価し採択決定を行っており書面審査で付与された評点以外の要素で決められたこともある。

という2点です。(2)は少し説明が必要かもしれません。書面審査を行って評点を付してその点をもって採択、不採択がきめられたのですが、ボーダー付近の案件に関しては都道府県ごとに持ち寄って再度審査したとのことです。しかし、この解析に用いたのは書面審査の評点であって、再審査時の結果ではないため、そもそもこのデータでよかったのか、という問題提起です。ちなみに現在はこの再審査はおこなわれていないとのことです。

 この(1)も(2)もディスカッションペーパーにははっきりと記載されているのになんで報道では触れていないんだろう、と思います。

 そして、このディスカッションペーパーの考察部分では、政策効果に有意な影響は見られなかったこと、こういた解析に用いるデータにはいくつか課題があり、それらに対応できる手法が必要である、として締めくくっています。

 ここで注意すべきは「有意な影響は見られなかった」という言い回しですが、統計をすこしでも勉強した方はお判りでしょうが「結論めいたことは導けなかった」ということで「政策に意味はなかった」という意味ではありません。

 我々実務に携わる者は確かに統計手法の細部については議論できません。また今回の解析に関しては、分析された方はものづくり補助金の実態に関して大変よく理解しておられるようです。だからといって他人任せにはせず、自分たちができること、つまり分析に用いられているデータに関しては実務に携わる者の目から妥当かどうか、しっかり見ていく必要があるとこのディスカッションペーパーを読んで思いました。

 EBPM(エビデンスベースの政策立案)が言われている中で、我々が関わる政策がエビデンスに基づいて見直されたり、新たに政策が立案されることもあるでしょう。その際には、どういうデータに基づいて解析がなされたか、改めてチェックが必要なのではないでしょうか。それが士業の責任だと思います。

 しっかし、このディスカッションペーパーからなんであんな報道になるのかなあ。